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最高裁判所第一小法廷 昭和53年(あ)846号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人本人の上告趣意及び弁護人角南俊輔の上告趣意のうち憲法二一条、一四条違反をいう点について

公職選挙法(昭和五〇年法律第六三号による改正前のもの、以下同じ。)一四八条三項は、いわゆる選挙目当ての新聞紙・雑誌が選挙の公正を害し特定の候補者と結びつく弊害を除去するためやむをえず設けられた規定であって(第一〇回国会衆議院公職選挙法改正に関する調査特別委員会議録第四号〔昭和二六年五月二五日〕、第一三回国会衆議院公職選挙法改正に関する調査特別委員会議録第四号〔昭和二七年六月四日〕、第一三回国会参議院地方行政委員会会議録第六〇号〔昭和二七年七月一四日〕等参照)、公正な選挙を確保するために脱法行為を防止する趣旨のものである(最高裁昭和二八年(あ)第五六六二号同二九年六月一一日第二小法廷決定・刑集八巻六号八六五頁参照)。

右のような立法の趣旨・目的からすると、同項に関する罰則規定である同法二三五条の二第二号のいう選挙に関する「報道又は評論」とは、当該選挙に関する一切の報道・評論を指すのではなく、特定の候補者の得票について有利又は不利に働くおそれがある報道・評論をいうものと解するのが相当である。さらに、右規定の構成要件に形式的に該当する場合であっても、もしその新聞紙・雑誌が真に公正な報道・評論を掲載したものであれば、その行為の違法性が阻却されるものと解すべきである(刑法三五条)。

右のように解する以上、公職選挙法一四八条三項一号イの「新聞紙にあっては毎月三回以上」の部分が憲法二一条、一四条に違反しないことは、当裁判所大法廷判例(昭和二八年(あ)第三一四七号同三〇年四月六日判決・刑集九巻四号八一九頁、同二九年(あ)第七八七号同三〇年二月一六日判決・刑集九巻二号三〇五頁、同二四年(れ)第二五九一号同二五年九月二七日判決・刑集四巻九号一七九九頁、同三七年(あ)第八九九号同三九年一一月一八日・刑集一八巻九号五六一頁、同四五年(あ)第一三一〇号同四八年四月四日判決・刑集二七巻三号二六五頁、同二九年(あ)第四三九号同三〇年二月九日判決・刑集九巻二号二一七頁)の趣旨に徴し明らかであるから(最高裁昭和三五年(あ)第四七〇号同年七月一五日第二小法廷判決・裁判集刑事一三四号六一一頁参照)、所論は理由がない。

弁護人角南俊輔の上告趣意のうち憲法三一条違反をいう点について

新聞紙と雑誌の区別が所論のように不可能とはいえないから、所論は前提を欠き、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

よって、同法四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 団藤重光 裁判官 藤崎萬里 裁判官 本山 亨 裁判官 戸田 弘 裁判官 中村治朗)

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